脊椎インプラント感染治療

症例ベース

症例

84歳男性.腰椎椎体間固定術(L4/5)を施行され,術後5日目に38℃台の発熱と創部の発赤,排液を認めた.迅速グラム染色でグラム陽性球菌を認め,培養で表皮ブドウ球菌(SE)の可能性が示唆された.薬剤感受性結果はメチシリン耐性株(MRSE)であった.術後早期(1週間以内)の感染であるため,インプラント温存を前提とした治療方針を検討する.

「先生,術後まだ1週間以内ですが,このようにインプラント周囲に感染を起こした場合,どのように対応すればよいのでしょうか[1].インプラントはすぐ抜去せずに温存することもあると聞いたのですが,抗菌薬治療の期間も含めてよく分かっていません[2].とりあえずバンコマイシンを点滴すればいいのかなと思っています.経口薬への切り替え時期やリファンピンの使い方などがあると教科書で見ましたが,すみません,まだ理解があやふやですワン[3].」

では一緒に考えてみよう、チワワレジデントのユキ先生。まず,脊椎インプラントの早期感染(術後1週間以内)でも,十分なデブリドマンと抗菌薬治療を行えばインプラント温存が可能なケースは多いんだ[1].デブリドマンで感染巣をしっかり洗浄し,膿を排出するのが第一歩[2].その上で,グリコペプチド系のバンコマイシンなどMRSEに有効な薬を使い始めるんだね.
抗菌薬治療は通常,まず1~2週間の静脈注射療法を行って創部の炎症を十分にコントロールする[3, 4].その後,創部のドレーンが抜去できて排液がなく,炎症所見も改善していれば経口薬へ移行するのが一般的だよ[3, 4].この“創部が乾燥している”というのが一つの大きな指標になる[5].

治療期間

さらに,治療期間についてだけど,インプラントを温存する場合は少なくとも合計12週間(約3か月)は抗菌薬を続けることが推奨されているんだ[2].昔は6週間で十分とされたこともあったけれど,近年では3か月治療した方が治癒率が高いという報告がある[2].具体的には,フランスのDubéeらの研究では,術後早期の脊椎インプラント感染に対して3か月間の抗菌薬治療を行った結果,約94%の治癒率と非常に良好な成績を示している[2].

リファンピシンの併用について

海外のガイドラインとしては,脊椎インプラント感染に特化した明確なものはまだ少ないんだけれど,人工関節感染(PJI)のIDSAガイドラインやヨーロッパのICMコンセンサスが大変参考になる[3, 6].これらではインプラント温存時に2~6週間のリファンピン併用静注治療を行って,その後数か月の経口療法を続ける戦略が推奨されているんだ[6].日本でも同じようなやり方を採用している施設が多いね.

MRSEに対する抗菌薬

次にMRSEにおける抗菌薬選択だけど,最初はバンコマイシンやテイコプラニンなどのグリコペプチド系を使うことが多い[1, 4].最近ではダプトマイシンやリネゾリドなども選択肢に入る[1].これに加えて,リファンピシンを併用することで,バイオフィルム内の菌を制御しやすくなる[4, 5].ただしリファンピシンは耐性化を防ぐため必ず他の抗菌薬と併用すること[4].それが鉄則だね.

静注から経口薬に移行する場合、MRSEには何を使うんですか?

経口移行後は,リファンピンと相性のいいフルオロキノロン系(レボフロキサシンなど)やST合剤,テトラサイクリン系など,菌の感受性に応じて選択する[1, 4, 5].リネゾリドも経口薬として使えるけど,骨髄抑制とか末梢神経障害といった副作用に注意が必要だ[1].

経口切り替えの適応

静注から経口薬に移行するタイミングはいつ頃がいいんですか?

経口切り替えの適応は,以下の4つを満たす場合が目安になるね[3, 5].

(a)病原菌が分かっていて経口薬に感受性があること
(b)初期の静注治療で状態が改善していること
(c)全身状態が落ち着いていること
(d)創部が乾燥して排液がないこと

治療成功率については,たとえばOVIVA試験という大規模RCTでは,骨・関節感染症に対して経口への早期切り替え群と静注継続群を比較して治癒率にほとんど差がなかったと報告されている[3].適切な時期に経口に切り替えれば,通院治療が可能になり患者さんの負担を減らせる利点がある[3].ただし,もし再度悪化の兆候が出たらすぐ静注に戻す柔軟な対応が必要だね[3, 4].

まとめ

まとめると,術後早期の脊椎インプラント感染では,

(1)十分な外科的デブリドマン
(2)初期は1~2週間の静注療法
(3)状態が改善していればリファンピン併用の経口薬へ切り替え
(4)合計3か月ほどの抗菌薬投与


というプロセスをしっかり踏むことで,高率にインプラントを温存できる[2].MRSEならまずはグリコペプチド+リファンピン併用を意識することが大切だよ[4, 5].

参考文献

  1. Palmowski Y, Ehehalt R, Paetzold H, et al. Antibiotic treatment of postoperative spinal implant infections. J Spine Surg. 2020;6(4):755-762. doi: 10.21037/jss-20-499. PMID: 33644708; PMCID: PMC7797805.
  2. Dubée V, Zeller V, Lhotellier L, et al. Three-month antibiotic therapy for early-onset postoperative spinal implant infections. Clin Infect Dis. 2012;55(11):1481-1487. doi: 10.1093/cid/cis764. PMID: 22942207.
  3. Li HK, Rombach I, Zambellas R, et al. Oral versus Intravenous Antibiotics for Bone and Joint Infection (OVIVA): a multicentre randomised controlled trial. N Engl J Med. 2019;380(5):425-436. doi: 10.1056/NEJMoa1710926. PMID: 30699315.
  4. Zimmerli W, Widmer AF, Blatter M, Frei R, Ochsner PE. Role of rifampin for the treatment of orthopedic implant-related staphylococcal infections: a randomized controlled trial. JAMA. 1998;279(19):1537-1541.
  5. Shiban E, Janssen I, da Cunha PR, et al. Therapeutic outcome of spinal implant infections caused by Staphylococcus aureus: a retrospective observational study. Infect Dis (Lond). 2018;50(8):576-583. doi: 10.1080/23744235.2018.1461085. PMID: 30089168; PMCID: PMC6200525.
  6. Osmon DR, Berbari EF, Berendt AR, et al. Infectious Diseases Society of America clinical practice guidelines for the diagnosis and treatment of prosthetic joint infections. Clin Infect Dis. 2013;56(1):e1-e25. doi: 10.1093/cid/cis966.

コメント

タイトルとURLをコピーしました