閉塞性胆管炎の治療期間

疾患別

症例概要

70代男性。膵頭部癌による閉塞性黄疸で入院中。ERCPによる胆管ドレナージを試みたものの、腫瘍の浸潤が強く十分な減黄が得られていません。この状況下で発熱と腹痛が出現し、検査で炎症反応の上昇が認められました。指導医とチワワレジデントのユキ先生との病棟回診にて、閉塞性胆管炎(急性胆管炎)の抗菌薬治療についてディスカッションが始まりました。

膵癌による胆道閉塞があり、発熱と腹痛、黄疸があるので閉塞性胆管炎と考えますワン。ドレナージが不十分なので感染が残存しているかもしれません。

そうですね。閉塞による胆管炎は急性胆管炎の典型的な状況です。まず診断の確認ですが、胆管炎の診断にはCharcotの三徴(発熱、右上腹部痛、黄疸)や検査所見での炎症反応・胆道系酵素上昇、画像所見での胆管拡張や閉塞因子の確認が重要です。 今回はそれらが揃っており、閉塞性胆管炎と判断できますね。では、この患者さんの重症度はどう評価しますか?

はい。バイタルサインを見ると血圧は安定していますが発熱があり、意識は清明です。Tokyoガイドラインの重症度分類では、ショックや意識障害など臓器不全があれば重症(Grade III)、高熱や白血球増多など全身所見が強ければ中等症(Grade II)、それ以外は軽症(Grade I)ですね。今回は臓器不全はないので中等症~重症の境界くらいでしょうか。

概ね良いでしょう。重症度が高いほど緊急ドレナージと広域抗菌薬投与が必要になります。では、治療方針、とくに抗菌薬治療を考えてみましょう。

初期治療と抗菌薬の選択

胆管炎ではグラム陰性桿菌、特に大腸菌やクレブシエラが多いので、第3世代セフェム系を使おうと思います。例えばセフトリアキソンを開始しようかと考えています。

起因菌の考慮は良いですね。胆汁培養・血液培養は採取しましたか?

はっ、まだ培養を提出していませんでした。すぐに血液培養を2セット提出します。ERCP施行時に胆汁培養も行います。

そうしましょう。胆管炎では血液培養および胆汁培養を可能な限り行い、起因菌を同定して治療を適切に調整することが重要です 。さて抗菌薬ですが、胆管炎の主な起因菌はおっしゃった通り腸内細菌科、例えば大腸菌が最多で、次いでクレブシエラ、エンテロバクター属などが多いです 。さらに腸球菌(エンテロコッカス)も3割程度で検出されますし、嫌気性菌も約2割で混在します[1][2]。となると、カバーすべき菌は広いですね。

胆汁培養から分離された微生物分離された菌の割合(%)
グラム陰性菌
Escherichia coli31–44
Klebsiella spp.9–20
Pseudomonas spp.0.5–19
Enterobacter spp.5–9
Acinetobacter spp.
Citrobacter spp.
グラム陽性菌
Enterococcus spp.3–34
Streptococcus spp.2–10
Staphylococcus spp.0
嫌気性菌4–20
その他

[1]より抜粋・改変

セフトリアキソンはグラム陰性菌には有効ですが、嫌気性菌や腸球菌には弱いですね…。ではタゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC)の方がよいでしょうか?ピペラシリン系なら嫌気性菌もエンテロコッカスもある程度カバーできますし、重症例で念頭に置く緑膿菌にも効きます。

その通りです。中等症以上の胆管炎では、初期治療として広域ペニシリン系/βラクタマーゼ阻害剤カルバペネム系など、グラム陰性桿菌・嫌気性菌・腸球菌をカバーできる薬剤が推奨されています 。具体的にはピペラシリン/タゾバクタムが第一選択肢の一つです。これなら大半のグラム陰性菌と嫌気性菌、さらに腸球菌(E. faecalis)もカバーできます 。ガイドライン上も「中等症~重症(Grade II/III)胆管炎には広域ペニシリン/βラクタマーゼ阻害薬や第3・4世代セフェム+メトロニダゾール併用が推奨」されています 。セフトリアキソン単剤だと嫌気性菌や一部の腸球菌をカバーできないため、メトロニダゾール併用が必要になりますね。

なるほど。ではピペラシリン/タゾバクタムを開始し、培養結果を待つ形にします。

適切です。補足すると、緑膿菌のリスクが高い場合(たとえば長期入院中や胆道ステント留置中で院内感染の可能性が高い場合)はピペラシリン/タゾバクタムやカルバペネム系が強く推奨されます 。逆に市中感染でリスクが低い軽症例では、第3世代セフェム+メトロニダゾールやアンピシリン/スルバクタムなどでも十分な場合があります。ただ今回は悪性腫瘍による閉塞でドレナージ不全という難治性の状況ですから、広域抗菌薬で確実にカバーするのが安全でしょう。

腸球菌や嫌気性菌も多いと知らなかったので、セフトリアキソン単剤では不十分でした。広域カバーを意識します。

そうですね。あとMRSAは通常胆管炎では主要な起因菌ではありませんので、特殊なリスクがなければバンコマイシンなどは初期には不要です。

胆管ドレナージの重要性

抗菌薬治療で様子を見ますが、ドレナージが不十分なままなので心配です…。抗菌薬だけで治せるでしょうか?

良い視点です。胆管炎の治療の基本は抗菌薬とドレナージの両輪です。胆管内にうっ滞した胆汁は細菌の温床になりますから、感染源の除去(source control)が極めて重要です 。Tokyoガイドラインでも『胆道閉塞を伴う胆管炎では適切な抗菌薬投与に加えて早急な胆道ドレナージを行うべき』と強調されています 。抗菌薬だけでは胆管内の細菌を根絶できず、再燃する危険があります。

今回はERCPで十分にドレナージできなかったので、どうしましょう?

ERCPで困難なら経皮経肝ドレナージ(PTBD)など他の方法も検討すべきです。患者さんの全身状態を見つつ、放射線科や外科と相談して追加のドレナージを検討します。少なくとも、現状のわずかな胆汁ドレナージでも培養検査に出して菌を同定し、ドレナージカテーテルがあるなら洗浄するなどの対応も必要でしょう。

抗菌薬で一時的に良くなっても、閉塞が解消しない限りまた悪化する可能性がありますね。

その通りです。抗菌薬で症状が落ち着いたとしても、原因の閉塞が残存する場合は治療完了とはみなせません。したがって可能な限り胆管ドレナージの追加施行を計画します。ただし、患者さんの状態や膵癌の進行度によっては根治的な解除が難しいこともあります。その場合は抗菌薬の投与期間の延長を検討することもありますが、基本はまず可能なsource controlの追求です。

抗菌薬治療期間とガイドラインの指針

次に抗菌薬の投与期間について考えましょう。胆管炎ではどのくらい抗菌薬を続けるのが適切でしょうか?

重症ですし、高齢者なので2週間程度は必要ではないでしょうか…。膿瘍とかと同じように長めに投与しがちかなと。

確かに昔は10日以上投与することも多かったですが、最新のガイドラインではずいぶん考え方が変わっています。IDSA(米国感染症学会)の2010年のガイドラインおよび2018年の国際コンセンサスガイドライン(Tokyo Guidelines 2018)では、ドレナージなど感染源コントロールが達成できた胆管炎では4~7日間の抗菌薬投与で十分と勧告されています​[5]。これはエビデンスが完全に確立しているわけではありませんが、不要な長期投与は耐性菌のリスクを高め副作用も増やすためです​[2]。

4~7日ですか!思ったより短いですね。

ええ、短く感じるかもしれませんね。しかし、胆管ドレナージがきちんと行われ感染源が除去されれば、1週間以内の短期療法で十分なケースが多いんです​[4]。実際、胆管炎を対象に短期(4日) vs 長期(8日)の抗菌薬治療を比較した最近のランダム化比較試験でも、4日で十分効果があり8日コースと再発率や予後に差がなかったとの報告があります​[4]。一方でドレナージが不完全な場合や感染がコントロールできていない場合には、この限りではありません。その際は症状や炎症所見が落ち着くまで延長が必要です。

なるほど…。では、この患者さんはドレナージ不十分なので、4~7日では足りない可能性がありますね。

そうですね。現時点で感染源が残っているわけですから、基本はドレナージ完了まで抗菌薬を継続します。少なくとも全身状態が改善し炎症反応が落ち着くまでは投与が必要でしょう。ただし可能であれば途中で追加のドレナージを行い、そのタイミングから改めて4~7日のカウントをする形が望ましいです。

わかりました。あと、ガイドラインの4~7日というのは全例一律でしょうか?

良い問いです。実は特例もあります。一つは起因菌がグラム陽性球菌、特に腸球菌(Enterococcus)や連鎖球菌(Streptococcus)だった場合です。この場合は感染性心内膜炎のリスクを考慮して、治療期間を少なくとも2週間程度に延長することが推奨されています​[3]。胆管炎でもこれらの菌が原因の場合、菌血症をきたして心臓に定着する可能性があるからです。また、グラム陰性菌でも菌血症を伴った場合には念のため7日間程度は投与することが多いです​[6]。一方でドレナージ後に速やかに解熱し臓器障害もなくなった軽症~中等症例では、短い場合3~4日で打ち切る報告も出ており、実際日本からの報告でもERCP後2日間の抗菌薬で十分とのデータがあります​[2]。

菌種によって延長すべき場合があるのですね。腸球菌は要注意ですね。

そうです。したがって培養結果で腸球菌や溶連菌が検出されたら心内膜炎の症状にも注意しつつ少し長めに治療を続行します。またグラム陰性菌でも発熱が長引く場合膿瘍の合併などがあれば柔軟に期間を調整します。しかし基本線としては『ドレナージ後の胆管炎は1週間以内の治療』を念頭に置き、過剰な延長を避けることが抗菌薬適正使用の観点からも重要です​[2]。

治療経過のフォローと抗菌薬の調整

抗菌薬開始後はどのようにフォローしましょうか?

まず臨床症状とバイタルの改善をしっかりモニターします。発熱の経過、腹痛の軽減、意識レベル、尿量など全身状態ですね。重症胆管炎では48時間以内に改善しない場合、抗菌薬が適切か、ドレナージが十分かを再評価する必要があります。幸いこの患者さんは今のところ血圧維持できていますが、逆に悪化するようならICU管理や昇圧剤も検討します。

培養結果が出たらどう対応しましょう?

培養検出菌と感受性に基づいて、可能な限り抗菌薬のde-escalation(狭域化)を図ります​[1]。例えば培養で大腸菌が出てカルバペネム耐性もなく感受性良好なら、当初のピペラシリン/タゾバクタムから第3世代セフェム単剤などより狭いスペクトラムの薬剤に切り替えて残りの治療を完遂します。あるいは経口薬でカバーできる状況なら適宜経口薬に切り替えて退院調整します。長く広域薬を使いすぎると耐性菌の誘発につながりますから、改善傾向ならばスペクトラムを絞るのが原則です​[1]。

培養で腸球菌が検出された場合はどうしましょう?

胆管炎で検出されるEnterococcus faecalisならピペラシリン/タゾバクタムやアンピシリンでカバー可能です。感受性次第ではアンピシリンへのde-escalationも考えます。Enterococcus faeciumや耐性菌(VREなど)の場合はバンコマイシンなど検討しますが、初発からいきなり狙う必要は通常ありません。腸球菌が検出されたら治療期間を延長することは先ほど述べた通りです[3]。

ドレナージが不十分な場合、抗菌薬は一旦終了してまた再発時に開始する形ですか?

ケースバイケースですが、ドレナージ不十分で胆管に菌が残存する場合、症状が続く限りは継続投与します。一旦改善しても閉塞が残っていれば早期に再燃する恐れが高いです。そのため、多くの場合は次のドレナージ策が講じられるまで抗菌薬を継続し、再度発熱するようなら再度培養を提出して抗菌薬を調整、という流れになるでしょう。最終的にドレナージで胆汁の流れが確保できれば、そこで区切って治療終了を検討します。

ピットフォールとTips

最後に、今回のケースで覚えておいてほしいポイントをまとめます。研修医の先生方が間違えやすい点も含めて整理しましょう。

①起因菌のカバー不足: 胆管炎ではグラム陰性桿菌だけでなく嫌気性菌腸球菌も頻繁に関与します。セフェム系単剤では不十分な場合が多いので、必ず嫌気性菌カバーを追加するか広域薬を選択しましょう​[1][2]。緑膿菌リスクの評価も忘れずに​[1]。

②培養検査の失念: 血液培養を抗菌薬投与前に提出するのは鉄則。ドレナージ可能なら胆汁培養も[4]。

③ドレナージ軽視: 抗菌薬単独では完治困難。早期の胆道ドレナージでsource controlを行う[1][5]。

④過度な長期投与: ドレナージ後は4~7日間の短期治療でも再発率や転帰に差がないとの報告あり[1][4][5]。

⑤治療期間の例外も: 腸球菌溶連菌で菌血症がある場合は2週間前後の延長を考慮[3]。膿瘍形成や重篤例でも柔軟に期間を調整。また菌血症を伴う場合も少なくとも7日間は様子を見るなど、個別に調整しましょう[6]。

閉塞性胆管炎の抗菌薬治療は、適切な初期抗菌薬選択と速やかなドレナージ、そして適正な治療期間がポイントです。ガイドラインやエビデンスに基づきつつ、患者個々の状況(ドレナージの状況や起因菌、重症度)に応じて柔軟に対応することが重要です。今回学んだことを踏まえて、今後の患者さんにも生かしていきましょう。

ありがとうございました!短期間治療のエビデンスや腸球菌の場合の対応など、とても勉強になりましたワン。今後はガイドラインを踏まえて適切な抗菌薬管理を心がけます。

参考文献

  1. Gomi H, Solomkin JS, Schlossberg D, et al. Tokyo Guidelines 2018: Antimicrobial therapy for acute cholangitis and cholecystitis.J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2018;25(1):3-16.​
  2. Masuda S, Imamura Y, Jinushi R, et al. Navigating antibiotic therapy in acute cholangitis: Best practices and new insights.J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2025;32(1):44-57.​
  3. Nve E, Badia JM, Amillo-Zaragüeta M, et al. Early Management of Severe Biliary Infection in the Era of the Tokyo Guidelines.J Clin Med. 2023;12(14):4711.​
  4. Li A. What is the proper antibiotic duration for cholangitis?IDSA Science Speaks Blog. March 21, 2024.​
  5. Srinu RS, Reddy DN, Satyanarayana G, et al. Shorter versus longer antibiotic therapy in acute cholangitis after biliary drainage: A randomized controlled trial.Am J Gastroenterol. 2024;119(1):176-182.​
  6. Stanford Antimicrobial Safety & Compliance Program. Empiric Antibiotics Guidance – Intra-Abdominal Infections (Acute Cholangitis excerpt). Stanford Health Care, 2021.​

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