Streptcoccus gallolyticusと大腸癌と感染性心内膜炎

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Streptcoccus gallolyticusと大腸癌の関連性

先生、Streptococcus gallolyticusってどんな菌なんですか?調べると、Streptococcus bovisと呼ばれていたようなのですが。

そうですね、Streptococcus gallolyticusは、かつてStreptococcus bovisと呼ばれていた菌群の一部です。実は分子分類の進歩によって、昔“S. bovis”とひとまとめにされていた菌が細かく分類され、S. gallolyticus subsp. gallolyticusという種になりました​ [1]。この菌はグラム陽性の連鎖球菌で、ヒトやウシなどの消化管に常在しています​。
健康な人の腸内でも2.5~15%程度の人にこの菌がいると報告されています​。一方で、この菌は感染症を引き起こすことがあり、とくに胆道感染、髄膜炎、感染性心内膜炎(IE)、そして大腸ポリープ・大腸癌との関連が指摘されていることが最大の特徴です。

常在菌だけど、感染症も起こすし大腸癌とも関係がある…ということでしょうか? 大腸癌との関連というのは具体的にどういうことなんですか?

はい、S. gallolyticus大腸癌との強い疫学的関連が知られています。これは1950年代から報告があり、1970年代に出た報告では、当時のS. bovis(現在のS. gallolyticus)による感染性心内膜炎患者14例中9例に大腸癌が見つかったとされています​ [2]。その後も多数の研究で同様の関連が確認されました。例えば、S. gallolyticus感染症を起こした患者さんの約2割から6割に大腸腫瘍(大腸癌や高リスクの腺腫)が合併していたとの報告があります​ [3]。最近の系統的レビューでも、S. gallolyticusを含むSBSEC菌血症の患者は、一般の患者に比べ約3.7倍も大腸癌が見つかりやすいというデータが示されています​ [4]。要するに、S. gallolyticusの感染が起こった場合には「ひょっとして大腸に腫瘍が隠れていないか?」と強く疑われるわけです [5]。

S. gallolyticusが大腸癌と関連するメカニズム

どうしてそんなに大腸癌と一緒に見つかるんでしょうか?メカニズムは解明されているんですか?

完全には解明されていませんが、いくつか考えられていることがあります。1つは大腸癌があると腸粘膜のバリア機能が低下し、腫瘍からの微小な出血や組織変化を通じて腸内細菌が血流に侵入しやすくなるという点です。特にS. gallolyticus大腸癌組織に定着しやすく、癌によって新生された血管にも付着できるため​、腫瘍のある腸からこの菌が血中へ漏れ出る機会が増えると推測されています。これがS. gallolyticus感染症と大腸癌が同時に起こりやすい理由の一つでしょう。

さらに興味深いことに、この菌自体が大腸癌の進展を助長している可能性も示唆されています。最近の研究では、S. gallolyticus大腸癌細胞の増殖を直接刺激し、腫瘍の発育を促進することが示されました​ [6]。マウスモデルでも、S. gallolyticusが腸に定着すると結腸腫瘍の発生が加速するとの結果が報告されています [6]​。その結果、ますます血流に乗って全身に出てきやすくなる可能性があります。以上のように、S. gallolyticusと大腸癌はお互いに影響しあっている可能性があります。

S. gallolyticusの菌血症をみたら感染性心内膜炎にも注意!

なるほど、腸の中で腫瘍が菌の温床になり、一方で菌が腫瘍の成長を手助けしているかもしれないんですね。それで感染性心内膜炎にもつながるんでしょうか?

おっしゃる通りです。感染性心内膜炎との関連についても触れておきましょう。S. gallolyticusは、実は全ての感染性心内膜炎症例の5~15%程度を占めS. gallolyticusの菌血症患者の約30%に感染性心内膜炎を合併していたとの報告もあります [7]。特に高齢の患者さんで、この菌が心内膜炎の原因菌として見つかることがあります。S. gallolyticusは上述の通り大腸から血流に乗りやすく、さらに心臓の弁に定着して増殖できる能力があります。したがって、大腸に腫瘍があるような患者さんでは、この菌が血行性感染を起こして弁に菌塊を作り、心内膜炎を発症させるリスクが高まります​。

[7]より抜粋・改変

実際、S. gallolyticusによる心内膜炎患者のかなりの割合で大腸病変(ポリープや癌)が見つかるのは先ほど述べた通りです​。逆に言えば、S. gallolyticusが血液培養や心内膜炎で検出された場合には、大腸の精査をすることで潜在する大腸癌を早期に発見できる可能性があります​。これは患者さんの命を救う発見につながりえますね。

実臨床での対応:心エコー⇒大腸内視鏡検査

S. gallolyticusが出たら大腸を調べろ、というのはよく分かりました。臨床では具体的にどう対応すればいいでしょうか?例えば血培で見つかったら必ず大腸内視鏡ですか?

非常に重要なポイントです。臨床的な対応としては、S. gallolyticusが血液培養で検出された場合には、まず感染症としての対応と並行して、感染性心内膜炎の有無を評価します。心雑音の有無を確認し、早めに心エコー検査(経食道心エコーが有用です)を行ってください。S. gallolyticusは心内膜炎を起こしやすい菌なので、無症状でも心内膜炎のスクリーニングは必須です。

そして消化管の精査、特に大腸内視鏡検査を必ず計画します。国際的なガイドラインでも明言されていますが、S. gallolyticusによる菌血症や心内膜炎の患者には大腸に悪性腫瘍やポリープがないか検査することが強く推奨されています​ [8]。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2015年のガイドラインでは、S. gallolyticusによる感染性心内膜炎患者には入院中に大腸内視鏡検査を行うよう推奨しており、もし初回検査で異常が見つからなくてもその後毎年フォローアップ内視鏡を行うことまで提案されています​ [9]。それほどまでに、この菌と大腸病変との関連が重視されているわけです。

分かりました。S. gallolyticusが見つかったら、心エコーで心内膜炎をチェックして、大腸内視鏡で腫瘍がないか調べる。そして必要な治療を行うわけですね。

その通りです。S. gallolyticus自体の治療としては、ペニシリン系やセフトリアキソンといったβラクタム系抗菌薬が第一選択です。これは他のレンサ球菌による心内膜炎治療と同様です。また、見つかった大腸ポリープや癌に対しては消化器内科や外科で適切な治療を行ってもらいます。重要なのは多職種で連携して患者さんの全身(感染症も腫瘍も)に対処することですね。

ありがとうございました!今日教えていただいたおかげで、S. gallolyticusを見たら大腸癌を疑う大切さがよく分かりました。

まとめ

  • S. gallolyticus は大腸癌との関連が極めて強い菌であり、感染(菌血症・心内膜炎)が見つかった場合は必ず大腸内視鏡による精査を検討する
  • 大腸癌との関連は「腫瘍が菌の侵入を許す」「菌が腫瘍進展を助長する」という二面性が考えられる
  • 感染性心内膜炎(IE)との関連も重要で、高齢者や基礎疾患をもつ患者でとくに注意
  • 治療は主にβラクタム系薬による抗菌薬療法+基礎病変(大腸ポリープ・癌)の治療が鍵
  • 「S. gallolyticus = 大腸癌&IEのサイン」――発見時は内視鏡や心エコーをセットで

参考文献

  1. 田口舜, 山口健太, 矢野智彦, 香月万葉, 佐野由佳理, 平野敬之, et al. Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticusによる化膿性脊椎炎・菌血症を契機に発見された大腸癌の1症例. 日臨微生物会誌. 2020;30(3):139–42.
  2. Hoppes WL, Lerner PI. Nonenterococcal group-D streptococcal endocarditis caused by Streptococcus bovis. Ann Intern Med. 1974 Nov;81(5):588–93.
  3. Pasquereau-Kotula E, Martins M, Aymeric L, Dramsi S. Significance of Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus Association With Colorectal Cancer. Front Microbiol. 2018 Apr 3;9:614.
  4. Ouranos K, Gardikioti A, Bakaloudi DR, Mylona EK, Shehadeh F, Mylonakis E. Association of the Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex with colorectal neoplasia: A systematic review and meta-analysis. Open Forum Infect Dis. 2023 Nov 31;10(11):ofad547.
  5. Chime C, Patel H, Kumar K, Elwan A, Bhandari M, Ihimoyan A. Colon cancer with Streptococcus gallolyticus aortic valve endocarditis: A missing link? Case Rep Gastrointest Med. 2019 Jul 3;2019:4205603.
  6. Taylor JC, Kumar R, Xu J, Xu Y. A pathogenicity locus of Streptococcus gallolyticus subspecies gallolyticus. Sci Rep. 2023 Apr 18;13(1):6291.
  7. Chamat-Hedemand S, Dahl A, Østergaard L, Arpi M, Fosbøl E, Boel J, et al. Prevalence of Infective Endocarditis in Streptococcal Bloodstream Infections Is Dependent on Streptococcal Species. Circulation. 2020 Aug 25;142(8):720–30.
  8. Medscape Registration [Internet]. 2024 [cited 2025 Mar 23]. Available from: https://emedicine.medscape.com/article/229209-workup?form=fpf
  9. Chongprasertpon N, Cusack R, Coughlan JJ, Chung WT, Leung CH, Kiernan TJ. Streptococcus bovis Endocarditis after Colonic Polypectomy. Eur J Case Rep Intern Med. 2019 May 8;6(5):001110.

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